村上亘は日本で生まれ、カナダとアメリカで育ち、それぞれの文化的背景が作品に影響を与えている。上智大学の比較文化学部で美術史と哲学を学んだ後、ドイツ・カールスルーエ造形大学でメディアアート(芸術写真)を学び、東洋と西洋の視覚文化に触れてきた。現在はベルリンを拠点に、記憶、空間、アイデンティティをテーマに制作を続けている。
日本語には「静観」という言葉がある。これは単に物事を眺めるのではなく、その背景にある文脈や、積み重なった時間の層を深く見つめることを意味する。この視点は、村上の制作の根底にも流れている。
日常の一瞬や見過ごされがちな空間には、意識されることなく存在しながらも、個人や社会の物語を語る力がある。愛媛県美術館で展示した《パズル・プリント》では、都市の風景を分解し再構築することで、空間の認識や体験のあり方に問いを投げかけた。
村上は写真にとどまらず、絵画や立体、映像といった異なるメディアを横断しながら、普段は気づかれにくい美しさや時間の痕跡を浮かび上がらせることを試みている。

制作年: 2024年 – 2025年
フォーマット: 写真プリントを分割・再構築
展示会期: 2025年1月31日 – 3月20日

この度、村上亘が出展する愛媛県美術館は、松山城のすぐ隣に位置している。ここは近現代美術と歴史的な環境が融合している場所であり、写真の進化について考える上でインスピレーションを得ることができる。

作品制作・出展するための準備
作品を完成させるため、展示スペース内で直接作業する機会を得た。ドイツで制作した自身のプリントを切り取り、組み立て、パズルのような構成を微調整し、作品設営を行った。テーブルと照明が設置されたスペースで、リアルタイムで作品を一つにまとめていく過程は、まさに作品そのものの延長のように感じる。

本展出展作品は、プリントを分割し再構築する《パズル・プリント》シリーズを紹介する。世界各地で撮影した都市の風景写真を分割し、再び組み合わせることで、「見る」という行為そのものを問い直している。
一見すると一枚の絵のように見えるが、よく見ると5×5に配置された紙が生むマス目が浮かび上がり、構成が分割されていることに気づく。このマス目は、ひとつのまとまりを持ちながらも個々の建築や都市要素の積み重ねによって形成されており、都市空間そのものの成り立ちを暗示しているように見える。作品の画面上でもそれが反映され、分割されたイメージの断片が視覚のリズムを生み出している。視線を巡らせることで、私たちは都市の構造や風景の奥行きについて、改めて意識することになるだろう。
展示風景

出展作品
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