愛媛県松山市に生まれ、横浜で幼少期を過ごし、カナダ、アメリカで育つ。2006年上智大学比較文化学部にて林道郎教授の授業受け、卒業後渡独。ドイツ・カールスルーエ造形大学でエルガー・エッサー(Elger Esser)、アルミン・リンケ(Armin Linke)、マイケル・クレッグ(Clegg and Guttmann)に師事し写真、メディア・アートを学び2016年卒業。現在はドイツを拠点に、西洋美術で扱われてきた「静物」に着目し、写真を媒体とした制作活動を行っている。2014年から取り組んでいる「Still Life」プロジェクトでは、自らの身の回りで起こる事象に向き合うことから、目前に存在する歴史性や宗教性、現代社会の課題や時代を象徴した造形に関係する作品を制作している。この作品はブックレット製本し纏められ、展示に合わせて空間に対するイメージを大判プリントやプロダクト製品と合わせて制作している。
「Still Life」プロジェクトは、写真をブックレットにすることでナンバー化してきており、現在18冊まで出版している。今までの「Still Life」の作品群は、 ブックレット製本及びプリント、そして空間にインストールするという3つの手法にて制作している。
「Still Life」のブックレットは今後もシリーズとして存在し、自らの生活から遭遇した体験や身の回りにあるモノに接近したドキュメンテーションとなる。それは西洋美術における「静物」の存在をどう捉え、写真を媒体として扱う西洋美術へのオマージュでもある。制作された写真群は現代でどのように理解されるのだろうか。静物のカテゴリーを生死、生活感、清掃、消耗品、保管用具、発明品と博物館、働く人、道具と工場、といった私の生きた時間の体験を基にキーワードを切り分け、まずはブックレットにすることで纏め上げてきた。
Blue Covered
インクジェット・プリント、アルミニウムにマウント、額装、50 × 40 cm、2014
本作品は、ドイツ、カールスルーエ国立自然史博物館のバックヤードにて撮影された作品である。タイトルとなっているブルーシートが掛けられた剥製は、他と同様の剥製とは異なる点があるのか?なぜこのシマウマだけにシートが掛けられているのか考えさせられる。現代のドイツの博物館には、近代に栄えた人の所有した剥製が多く寄付されている。新たな文明や文化混じりあう中で、富の象徴は変わっていく。過去を全て肯定することもなく、覆い隠したい部分もあるだろう。
Piles of Apples
インクジェット・プリント、アルミニウムにマウント、額装、50 × 40 cm、2018
フランクフルトにあるシュテーデルシューレ大学のエミリエの故郷を訪ねた土地コペンハーゲンは、自然に溶け込む生活を送っていた。彼女が別宅として利用した小屋の庭には、りんごの木が一本育っており、地面には散乱したりんごが転がっていた。りんごを拾い、仕分ける行為に早熟、成熟、遅熟といった選択の行為がカゴに積み重ねられたりんごを中心に造形として与えられている場面を捉えている。
撮影のために与えられたシチュエーションを用意した訳ではない。人が手を加えた時にその配置や構図によって人物像が見えて来る。
Last Days in Karlsruhe
インクジェット・プリント、50 × 40 cm、2017
カールスルーエで過ごした9年と半年、これからベルリンへ経つという時に納められた作品である。次に住む人の環境を思い、まだ息のある植物と短い間ではあるが人を迎え入れるために持たされた切り花が空間に色を添えている。
中心の植栽を取り囲む周囲には、意図的とも思える自身が所有するナイフ、ギター、食器が中心との距離を取って配置されている。
この作品は、「Still Life Tracing」にも私が作り出した構図をアブストラクトするためにスタディが重ねられている作品である。
Himi City (Horishin Fish Factory, Himi, Japan)
インクジェット・プリント、アルミニウムにマウント、160 × 200 cm (2 parts)、2017
私は富山県氷見市に撮影の仕事で滞在している。氷見の水産加工現場を訪れた時の黙々と作業を進める女性に目を奪われた。静かに人と人が手渡しで仕事を進め、常に作業の場を綺麗に保つ現場にはそこで働く人たちの姿が投影されたように映っていた。
本作品は、自身の体験を撮影しプリンティングしたものを再配置して撮影した作品となる。
Courtyard (with Florian Dombois: „Zugabe“, 2014, Potsdam, Germany)
インクジェット・プリント、アルミニウムにマウント、額装、61.5 × 76.4 cm、2018
1945年、ポツダム市中心地にあった古城が空爆により全焼。古城は2010年にブランデンブルグ州の州議会として再建された。市の元通りの古城への再現は叶わず、再建した場所の周りには一般道路や路面電車がすでに整備され、大きさは元の古城よりも8%縮小して再建した。
本作品は、歴史あるポツダムの文化的背景や現状の社会背景を元に再構築された環境を被写体とし、平然と元の古城を総仏させる建築群の違和感を捉えている。
Still Life Tracing (Table of a Serialkiller, incompleted)
インクジェット・プリント、アルミニウムにマウント、額装、75 × 60 cm、2018
カメラを手に取り、三脚を立て、撮影に入る行為には順序がある。ファインダーを通してその画角を確認し、その被写体との距離や光の具合を見て、ピントや絞りを合わせていく。この一つ一つの選択と決断を繰り返す丁寧な行為の連続した成果が「Still Life」という自身の代表作品を作り上げている。
この作品は完成された写真作品をプリントし、撮影された被写体を確認するように色鉛筆やクレヨンを用いて被写体を塗り潰していく。次に塗り重ねられた写真群の構図を決めシャッターを切る。
一度完成した作品に新たな行為を与えることで、「Still Life Tracing」を作り出している。
「Still Life Tracing」には、自身の見ている世界観が如何に映っているのか、何を背景として捉えることで作品が作られてゆくのか確認することができる。
自身の作品に対しての考え方を解説する一方で、再度撮影された画角の中には私自身が渡独して以来研究している静物画のモチーフや二次元の写真の中に錯覚するような奥行きが存在している。この点では、択一した構図に決められた角度やルールがあり、映し出す作品からは私自身の平穏さや終わり無い美術への探究心さえ見受けられる。
このシリーズには、「Still Life」の作品をコンタクトシートにてプリンティングし、色鉛筆やクレヨンを用い塗り重ねられた実物の作品がある。この作品は「Still Life Tracing」の過程を確認することができ、自身が被写体を浮き彫り出すために扱った手の運びまでよく見ることができる。
投影とイメージ
展示風景 (グループ展) / 2018年3月23日 – 4月22日 / ポーラ美術館アネックス、東京
FIT IN – IN BETWEEN
展示風景(個展)/ 2018年11月15日 – 2019年3月16日 / クンストシュティフテュング・バーデン・ヴュルテンベルク(Kunststiftung Baden-Württemberg)、シュテュットガルト、ドイツ